慶兼のお題:セリフ系 1「惚れた!」 |
ふと気がついたことがある。 兼続の視線の先には、幸村と慶次。 「よう、久しぶりだなぁ幸村」 「…慶次殿!この戦に参加されていたのですね」 そうやってごく普通に話し出す二人に、違和感を感じるのだ。 二人が初対面でないのは別にいい。どこぞの戦場で刃を交えたことでもあるのかもしれない。しかし、それだけではないのだ。どこがどう、とは言いがたいのだけれども。 (…なんだ?) 一度気になりだすとどうしてもそれを解明したくなる兼続は、しばらく二人を遠目から観察していた。周囲に人が多いこともあり、どれだけ熱い視線を二人にくれていようと、当の二人は気づく気配もない。 それをいいことにずっと観察を続けてどれだけ経った頃か。 「…では私はこれで…」 「おう、大将が呼んでるようだしなぁ」 向こうで三成が幸村を探している。それに気づいて慶次に頭を下げ、声のする方へ駆けていく幸村の背を目で追いながら。 その様子を見ていて、気がついた。 (幸村?) 逃げるように、とまではいかない。そこまで露骨でもないし、たぶん幸村も意識はしていない。が、慶次から逃げるように走り去った―――ように見えた。 (幸村が慶次を避けている?いや、苦手としている?そんな風には思えんが…) はて、これは一体どうしたことだ。 転がってきた兼続なりの結論に、しかし納得できずに首を傾げる。 なんというか、兼続にとってしてみれば、それは何だかちょっとありえないような気がするのだ。真田幸村という男は人当たりが柔らかい。あの三成までも影響を受けて柔らかめになるのだから、本物だ。 そんな幸村が慶次を嫌うだろうか。 前田慶次という人間も、またあけっぴろげで裏表のない男だ。それゆえに怖いところもある男だが、基本的には懐の広い、いい男だと思う。 考えれば考えるほど、幸村が慶次を嫌っているとは到底思えず、兼続は首を傾げるばかりだ。 「なんだいなんだい、幸村をじっと眺めて」 そうしていれば、ようやく慶次が兼続に気がついたらしい。彼の視線の先に幸村がいるのに気がついて、からかうように話題にする。 「おう慶次か。いや、ちょっと気になることがあるのだ」 「なんだ?」 「おまえ、幸村に嫌われているのか?」 直球な物言いに、まず慶次は一瞬押し黙り、ようやく合点がいったというように笑い出した。 「な、なんだ」 「いやぁ面白いねぇアンタ。いや、実際のとこは知らねぇが、嫌われてるってのとは違うと思うね、俺は」 「そうか。何故だか避けているように見えたのでな」 「へぇ」 「昔の馴染みなのだろう?」 「まぁちょっとな」 慶次が昔を懐かしむように、笑った。それだけで、何かあったのだなと感じることは出来る。もちろん、その過去の何かに幸村も絡むのだろう。だから、幸村は慶次を避けているのか。無意識に。 「何かあったのか。教えてくれ」 知りたい、と思った。 「なんでだい?」 「友と友の間に何かわだかまりがあるのならばなくしてやりたいと思う」 「その心意気は好きだがね。悪いが、俺が言える話じゃねぇ」 「そうなのか」 「幸村が話したら、俺も話すがな」 兼続には想像もつかない。二人に一体どんなことがあったのか。 幸村の過去になにがあったのか。 「…そうか。残念だな。しかし仕方ないか」 「ああ、仕方ないね」 「幸村は私に話してくれるだろうか」 「あんたの努力次第じゃないのかい?友達なんだろう?」 「うむ!…しかし慶次はいい奴だな」 「そいつぁ嬉しいね」 「そこで話し出したら不義だと叱ってやろうと思ったのだがな!さすが慶次だ。惚れるな!」 「ははっそうかい?俺ァあんたに惚れたがね」 「では相思相愛というやつだな!」 「あっはっはっ!アンタ最高だぜ兼続!」 二人の笑い声が周囲に響きわたる。しきりに惚れたのなんのとやりあっていたが、そのうちぽつりと慶次が声音をかえて囁いた。 「いやぁ、惚れたってのは本気なんだがねぇ」 一瞬の間があった。 「知っているよ慶次」 その、笑顔の。 天下御免の傾気者、前田慶次は彼に心の底から屈服した瞬間だった。 |
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相変わらず幸村中心なのねと言われると心が痛む(爆)。 でもまぁ共通の友人だしいいかなって思うのですが駄目ですか。 ちょっと連作で。か…けるかな…(爆)とりあえず「知っているよ」って兼続に言わせたかったんです。 慶次×兼続ですが兼続に振り回される慶次がいいんです。傾気者はそれを悔しがってればいいですよ。そんなわけでFさん、お約束の兼続です(笑)。 |