Journey Home




 嫌な夢を見た。
 雪の降る寒い日。空はどんより灰色に凝っている。
 どこの城かはわからなかったが、城に、火が放たれる。
 その中心に、兼続がいる。
「…慶次、こんな時間まで寝ていたのか?」
「あぁ、ちょいと悪酔いしたらしくてね」
 嫌な夢を見て、ぐだぐだと布団の中で時を過ごした。夢にしてははっきりした嫌なものだった。火の臭い、城の燃える音。

 ひとがもえるにおい。

「まったくおまえという奴は、いい男だというのに何でもその場に流されすぎだ」
「…あんたはそういうの、ないのかい」
 慶次の嫌な夢の中心は、兼続だった。当の兼続はぴんぴんしていて、殺してもただでは死なないような気がする。
「私はないな。酒を過ごす奴がいればそれを介抱するのが私の役目だ」
「損な役回り、好きだね」
「ははは、そうかもしれぬ」
「…なぁ、あんたさ」
 どうもいつもの調子が出なかった。瞼の奥に焼きついて離れない、業火の色。主のいない天守閣。僅かな部下を連れて退路を断ち、逃げる気のない兼続の、死んだような目。
「なんだ」
「…もしも、今あんたが信じるものが全部なくなったら、どうする」
「…なんだ。突然だな?」
「…いやぁ、悪いね」
「そうだな…。私の信じるもの、がなくなったのならば、…そうだな、慶次のように傾こうか」
「へぇ、あんたが?」
 意外だった。傾くという言葉から一番遠い気がする。しかし続く兼続の言葉に、慶次の中でさぁっとあの色が蘇った。
「盛大に火でもつけて、花見でもしよう。その中心で」
「……火、ね」
「ああ」
 聞くんじゃなかった、と思う。しかし今聞いておきたかった。
「なぁ、じゃあもう一ついいかい」
「ん?」
「もし、その状態であんたが誰か一人、死出の旅に連れていけるとしたら、誰にする」
「………なんだ、物騒な話だな」
「俺らしくないかい?」
「…誰か一人、か」
「ああ」
 慶次の三つ目の問いについて、兼続は何も言わなかった。察しているのか、それとも無意識にか。
「…そうだな、私に信じるものが何もないのであれば…幸村、かな」
「へぇ」
「あいつは、いつも生きる目的がはっきりしていないと、駄目な奴だろう?なんだか一人に出来んよ」
 ああ。
 あの夢の通り。
「…そうか。俺はふられるのかい」
「慶次は私がいなかろうが、私の信じるものが全てなくなろうが、己を見失わんだろう」
「…だから幸村、か」
「三成も、なんだかんだと平気だろうと思う。景勝様は、私如きの死出の旅に連れていけるわけがない。幸村は…、たぶん私はあいつを弟のように思っているのかもしれんな」
 そう言って笑う兼続に、慶次はあの夢を思い出す。
 幸村と対峙して、彼はそれでも言った。直江山城、天にかわりて不義を討つ。彼にとっての不義が、己自身であるというように。そして幸村に、ともに果てよう、と言う。炎にまかれながら、兼続だけが倒れる。
 細部まで覚えている。兼続は東軍にいて、酷く闇を抱えた目をしていた。
 おそらく、負けたのだ。そして力に屈した。彼にとっての不義に、自分自身が喰われた。
 そして自分ごと、その不義を滅すように。
 幸村を、そう突き動かす。
 そうならなければいい。そんな目に、この男が遭わなければいい。この男だけではなくて、幸村も。その場にいない、三成も、左近も。
「…やれやれ」
「どうした?」
「ちょいと、つきあわないかい。身体を動かしたい気分でね」
「ああ、いいぞ。何を賭ける」
「俺の命」
「なに!?」
「俺が勝ったら俺のもん。あんたが勝ったら、俺の命はあんたのもんさ」
「…ううむ、困ったな。私も同じものを賭けるべきだろうが」
「こわいのかい?」
「挑発するな。賭けはやめよう。身体を動かすのもだ」
「うん?」
「まだ、言い足りないことがあるだろう、慶次」
「…そう思うかい?」
「言えぬなら言うまでつきあおう」
「…いや、そうだな。ひとつ、あったな」
「なんだ?」

 夢でも勝手に死んでくれるな。

 すべて世は事もなし。
 何かに縛られるのも嫌で、いろいろなものの柵を飛び越えて生きてきた。
 しかしここで、越えられそうもない柵が一つ。
 柵の名は直江兼続。
 守りたいのかというと、そうではない。守ってやりたいのではない。彼の横に立ち、共に泣き笑い、ただ、そうやって生きていたいのだ。
 損な役回りが好きなこの男を。不器用なのか器用なのかわからない、はっきりとした生き様を。




BACK

タイトルは某フライトシューティングのテーマ曲。女性がうたいあげる切ない曲です。相当胸に迫るものがあります。兼続も幸村も三成も、そんな胸に迫るような生き方だと思う。

From above I can see from the heavens, Down below see the storm raging on.
And somewhere in the answer, There is a hope to carry on.

When I finally return, Things that I learn, Carry me back to home.
The thoughts that I feed, planting a seed, in time will begin to grow

The more that I try, The more that I fly,
The answer in itself, will be there.



はるか天上から眺める 激しき苦難の嵐
探し求めた答えは 希望があるはず
手にした力に導かれ
やがて故郷に帰るとき
この想いを託し
大地に植える一粒の種の
時と共にやがて育ち上がる

心ある限り 私は挑み続ける
力ある限り 私は飛び続ける
それこそが答えになる