for the HEROS





 出会い別れも生きるも死ぬも、全てはただあるがまま。
 生きるべくして生きるのが、大不便者、前田慶次の生き様だ。
 世の流れは常にあるべくしてあり、抗わずただ生きることを身上とし。
 だけれども、あの姿を見た時に感じた感情は忘れない。忘れられない。
「慶次、すまん」
 景勝が苦い顔で頭を下げた。主君にそうされる謂れはない。慶次は困ったように肩を竦めた。
「構わんさ。俺はむしろ嬉しいんだぜ」
 世の流れは今、上杉と徳川の二大勢力が睨みあう形となっている。しばらく戦らしい戦はなく、静かに時が流れていたが、ついに対決に至ることになった。
 敵方、一番槍を努めるのは本多平八郎忠勝。徳川に過ぎたる者と呼ばれる男だ。幾たびも戦場に立ち、家康を守り続けた。その身体、何者にも傷をつけることあたわず。
 一度だけ、戦場で見たことがある。あの目。その場にいるだけで感じる圧力。空気を振動させるほどの怒号。
 一度目は景勝から戦うなといわれた。戦いたくてわざわざ殿を買って出た。
 その時に見たのだ。あの目。あの姿。あの声。
 戦いたい。
「慶次。いいか、決して命を無駄にするな」
 兼続の声も慎重だ。
「わかってるさ」
 そう、わかっている。だってそうしなければ、二度と忠勝と戦えなくなる。
「大丈夫、わかってる。俺ァ一度や二度戦ったくらいで死ぬ気はねぇよ。いくらでも、戦うさ」

 そうして、国境近く門をふさいだ。たった一人、その門の前で人を待つ。
 多勢の気配を感じる。すぐ近くまで、徳川の軍が来ている。さぁ景勝と兼続は、今頃どうしているだろうか。準備は進んでいるか。あの時の景勝も兼続も、まるで死ぬ人間を見送るように苦しげだった。
 だが、死ぬつもりなど毛頭ない。死ぬ予感も少しもない。
 二又矛を担ぎ、ゆったりと門から背を離した。
 そうすれば、馬に跨った男が一人、軍の中を抜けてくる。
 遠く見ていてもわかる。

 本多平八郎忠勝。

「よぉ、忠勝さん」
「答えよ。上杉は何を考えている。前田慶次」
「仕合ってりゃわかるさ」
 慶次は笑っている。忠勝は鋭い眼光で全てを睨んでいる。
「我に戦いを挑むか」
「そうでなけりゃあ、こんなところで待っているわけがないねぇ」
 空気が震えている。彼がそこにいるだけで、空気が震え、緊張し、全ての糸が張り詰める。
 ああこの男に触れたいなぁ、と慶次は考える。
 おかしなことだが、しかし真実だ。
 この男のそばにいて、興奮しない奴がいるだろうか。
「さぁ、やろうぜ。忠勝さんよ!」
「よかろう、その武、試させてもらう!!」
 そして二人の得物が、耳に痛いほどぶつかりあい、二人はその震動に確かなむ手ごたえを感じて表情をさらに引き締めた。
 戦おう。
 そしてすべてに打ち勝とう。

 
さぁ、最強の君と戦いをはじめましょう。



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唐突に忠勝と慶次ですいません。この二人はなんていうか、慶次→忠勝だと思います。忠勝さんはほらなんでも「よかろう我に挑め!!」だから…。受けでも攻めでもねぇ…(爆)。
というか、そういう思いとかからは遠いので慶次の一方通行でいいと思う(笑)。