気づく人気づかない人




 
ホウ統が、前の文化祭に着ていた衣装が見たい、と無理を言ったのは徐庶だった。なんに使う気だい、なんて言われながら、どうにか手に出来たそれは、桃太郎一行の、猿のものだった。
「士元がこの尻尾を動かしていたのかぁ。何だか感無量だね」
「そうでしょう? よくぞ着せられたものだと思いましたよ」
「おまえさんらが無理やり用務員も例外なしだなんて言うからだろう。まったくとんだ恥をかいたもんだよ」
「恥? そうなのかい?」
「何せ桃太郎は趙雲殿、雉は馬超殿で犬が馬岱殿でしたからね。目立ちましたね、とても」
 去年の文化祭は、三校合同の企画があって、それがコスプレだった。童話から神話まで、ありとあらゆるコスプレが目をひいた。円卓の騎士やら白雪姫、ヘンゼルとグレーテルやアリス、三銃士まで。教師も何も全て強制的に参加させられた。他校の用務員も同じである。そんなわけで、ホウ統もその魔の手からは逃れられなかった。
 その中でも、話題にのぼった三人は普段から目立つ生徒である。何もしてなくても目立つ趙雲と馬超、そしてやたらサービス精神旺盛な馬岱である。
「ああ、彼らか…それは、何ていうか…うん」
「言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだい元直…」
「いや、た、大変だっただろうなと思って。…あと、何だかうらやましくて」
「なら是非かわりに着てほしかったもんだよ」
 ぶつぶつ言うホウ統に、諸葛亮と徐庶は肩を竦める。
 そもそもこんな話題になったのは、その時の写真が彼の持ち物から出てきたことから始まる。生徒三人のいい笑顔に囲まれて、顔を覆っている状態だからよくわからなくても、多少笑顔を浮かべているな、とわかるホウ統の様子。
「でもこんな写真をとってあるんだから。…いい思い出なんだろう?」
「犬っころが無理やり置いてっただけさね」
「そうなのかい? じゃあ俺がもらってもいい?」
「どうするつもりだい」
「え、心が折れそうな時にでも眺めようかなって…」
「どうかと思いますよ、元直」
「気でもふれちまったかい?」
「な、なんでそんな息ぴったりに否定するんだい。い、いいじゃないか」
 二人のあまりにも息の合った否定に、徐庶が慌てる。相変わらず、一番喧嘩っ早くてキレたらやばいなんていわれている癖に、こういう時はやけにおどおどするから、おかしな男だ。
「よくないよ」
「だ、だって楽しそうじゃないか。…何だか、こっちまで楽しくなってくるなって思うんだ」
「…なるほど、そういう事でしたら、まぁ、正常ですかね」
 諸葛亮のため息の大きなこと。
「どうしてそんな風に言うんだい!?」
 それに対する徐庶はやや涙目である。昔からやけに諸葛亮には及び腰である。
「まぁ衣装を持っていきたいって言わなかっただけましかね?」
ホウ統もため息まじりに肩を竦める。…と。
「あ、そうか。それもあったね…」
 やけに真剣な表情で、徐庶がそう言うものだから、二人は揃って首を振った。
「やめなさい」
「やらないよ?」
「だ、大丈夫だよ! あ、そうか。この写真、馬岱殿が置いていったんだっけ? 馬岱殿に写真をもらってくればいいのかな…。まだデータあるだろうか」
 確認してくるよ、と用務員室を飛び出していった徐庶を視線だけで追いかけて。
 残されたホウ統と諸葛亮はなんともいえない気分で顔を見合わせた。
「携帯のホーム画面にあの写真が来ることがないように祈りましょうか」
「…東南の風でも吹かしてくれるかい…?」
「あの様子ですと、まだ自分の気持ちに気づいていないようですが…覚悟した方がいいのでは?」
「どんな覚悟だい。まったく。今日びはよくわからん輩が多いねぇ」

 はたして、数日後に馬岱から、あれホーム画面にしようって喜んでたよ、なんて話を聞いて、諸葛亮は友人二人の今後について、ひとまず祭壇を作る準備でもしようか、と考えるのだった。





BACK

DLCネタで一貫している「大徳工業は他2校と合同で文化祭を開催し、その企画として全員コスプレ強要でした」というそういう…。蜀のDLCどうなりますかね…!