FLYING THREE

 兼続は三成がぶつぶつぶつぶつと、声にもなっていないような小声でぶつぶつ呟いているのほ聞きながら、今回自分がこんなに疲れた顔になった原因の半分くらいは三成のせいじゃないかな、と思ったりした。言わないけれど。
 何故三成がそんなことになっているのかと言えば、趙雲と幸村がまたどことなく似た雰囲気になっているからだ。
 元々、背も同じ、能力的にも同じ、雰囲気も似ている、と来てその上で、幸村も趙雲も似てしまったとなったら、なんだかもう何かの意志を感じるではないか。そうたとえば遠呂智とか。
「まぁ私から見ると、趙雲殿と幸村はあまり似ていないがなぁ…」
「そんなわけあるか。似ているではないか」
 髪型が似たとか、そんなところじゃないかと兼続は思うのだが、三成にとってはもうあちこちが似すぎているように思えるらしい。そう言われてもなぁとつくづく思いつつ、まぁそもそもあの二人は本当に仲が良いのだ。
「幸村殿、髪を切られたんですね。短いのもさっぱりして良い」
 そう言いながら、趙雲が自然に幸村の髪に触れる。隣で三成がなんだか呪いの言葉を吐いていそうだが、聞きとれないので放っておく。そもそも趙雲と幸村は兄弟のようで、あの年齢の兄弟がそんなに触れあったりするかと言われたら答えは否ではあるが、まぁなんだかあれはあれでありだ、と兼続は思う。
「あれ、おまえらどうしたの」
「孫市殿か」
 ひょっこり現れた孫市は、暑いといって上着を脱いで上半身裸である。それはそれで、何と言うか教育的指導をするべきかなと思ったが、兼続も暑いので言うのをやめた。
「いや、まぁいろいろとな」
「ああ、趙雲と幸村か?あいつら仲いいよな。ちょっと放っておくと怖いくらいだぜ」
「ほう?」
 言うが早いか、趙雲の指が幸村の頬に触れている。あちらでは、幸村殿大変お似合いですよ、とか、趙雲殿こそ眩しいですよとか、そんな微笑ましい会話が繰り広げられている。…確かに少し、触れあいにも限度というものが必要だと言う雰囲気ではあるが…。
 なんというか、趙雲の指がいちいち色っぽく感じるのだ。ただでさえ、趙雲の銀色の鎧は彼の整った顔立ちを引き立たせていて、女どもの中では白馬の王子様やわぁなんて声も聞かれる。普段の装いだと、もっとこう、落ち付いていて安心していられるのだが、あの鎧は全体的なに趙雲がいい人で終わらないことを誇示しているように思えてならない。
「兼続…」
 そんな二人を見つめていた三成は、新しく持ち出した乱髪兜に己の嫉妬に狂った顔を埋めてわなわなと震えていた。どうも耐えられなくなってきたようだ。この男も幸村病だなぁ心機一転とかなさそうだなぁ、なんて思いつつ、兼続は実に能天気かつ無責任に言い放った。
「なんだどうした落ち付け三成。鉄扇は折るな。どうせなら投げつけるなりして二人の間に割り込んでみせろ。今なら私が適当に口裏を合わせてやるぞ?」
 そうでもしないと、趙雲と幸村の二人の世界はどうにも割って入ることができなさそうだ。ただでさえ、あの二人は息ぴったりなのだ。城の上から飛び降りて背中合わせで戦っていた時も、その息の合いっぷりに驚いたものだ。
「……幸村は幸せそうだな」
「まぁ、…そうだな」
「俺は…っ!」
「ここには左近はいないぞ、三成」
 俺は勝ちたいのだとか言いそうだったので、先手を打って釘をさすと、三成はぐっと堪えてから孫市を睨んだ。まったく三成の考えることは手にとるようにわかる。
「この男がいるではないか!」
「ええ、俺?俺はちょっと男同士のとかは勘弁してほしいんだけどなぁ」
「はは、まぁ仕方あるまい。今の三成の頼みを断ったら後で狐に化かされて出雲入りしてるかもしれんぞ」
「それはそれで、俺阿国ちゃん好きだしなぁ〜」
「それは良いことを聞いた。今度きちんとそう言うといい。でないと阿国殿を凌統殿にとられるぞ」
「やめろよ洒落になんねぇ!」
 一応孫市も、凌統と阿国の関係を多少気に病んでいたらしい。もっと危機感を持てばいいのになぁ、とのんびり思っている兼続は、にっこり微笑んでこう言った。
「というわけで、三成の気持ち、わかってくれるか孫市殿」
「…いや、まぁ待てって。あいつらあれ以上発展しねぇだろ。放っといても」
 そう言った矢先だった。趙雲が幸村を抱きすくめた。放っておいているうちに何があったというのか。なんせ水の上も走る男・趙雲である。そんなわけでいきなり進展したとしても何ら不思議はない。
 しかも幸村も趙雲の背に手を回していて、ああ相思相愛ってああいうものかもしれんなぁと思ったりする。
 しかしそれもすぐ終わった。お互い少し頬を赤らめていたが、そのうち二人がこちらに気付いたのだ。そもそも全く隠れていなかったので、気づいてくれるのが遅すぎるわけだが。
「兼続殿、三成殿」
「孫市殿もご一緒ですか」
 二人が揃ってやってくる。三成はもう反応も出来ないほどの衝撃で、半ば人間やめたような顔になっていた。まぁ、乱髪のおかげで見えないようだが。
「何やってんだ?」
「ああ、お互い頑張ろう、と励ましあったんです」
 趙雲が笑顔でそう言う。幸村と二人、視線を交わして微笑みあったりして。
 これは手ごわいなぁ、と兼続も三成も思って、とりあえず一緒になって微笑んでみたりした。


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